第一夜
有梦如斯。
抱着胳膊坐在枕边的时候,仰面而卧的女子淡然说道:『我要死了。』女子的长发披散在枕上,轮廓柔美的瓜子脸点缀其中。白皙的脸颊泛出温和的血色,嘴唇自然也是红色。不管怎样,都没有即将死去的样子。可是,女子却淡然而清楚说道:『我要死了。』我也感到,女子真的快死了啊。
于是,我俯身而视,问道:『真的吗?快死了吗?』
女子回答道:『是啊,我快死了。』同时,睁大了眼睛。那眼睛大而莹润,修长的睫毛下面是乌溜溜的眼眸,眼眸里面浮现出自己的样子。
我凝望着这双眼眸的色泽,十分深邃,想到:这样也会死吗?
随之,恳切地把嘴凑近枕边,再次问道:『你不会死的吧!没事的吧!』
于是,女子睁开无神的黑色眼眸,仍旧淡然答道:『可是,我是要死了,没办法呀。』
『那么,你见得到我的脸吗?』我努力问道。
她笑了笑说:『哪会见不到呢,你看,不是映现在那里了吗?』
我漠然不语,脸离开了枕头。抱着胳膊,想着:无论如何也要死吗?
过了一会,女子又说道:
『我死了以后,请把我安葬了。用大的珍珠贝壳挖一个墓穴,再把天上落下的星尘碎片立为墓碑。然后,请守候在墓旁,因为我会回来与你相逢。』
我问道,什么时候回来相见呢?
『太阳升起又沉下去,接着再升起,然后再沉下去,对吧。……当殷红的太阳自东向西,自东向西沉下去的时候……你可以为我而守候吗?』
我默默地点了点头。女子淡淡的声调变得有些激动,坚决地说道:
『请为我守候一百年。』
『一百年,请坐在我的墓旁等我,因为我一定回来与你相见。』
我只是答道,我等着你。刚说完,黑色眼眸中自己清晰可见的样子,模糊以至消失。犹如平静的水面出现了波纹搅乱了映现其中的影子一样,映像一被冲走,女子的双眸就合上了。修长的睫毛中流出的泪水垂落于脸颊。
她,已经死了。
于是,我走到院子用珍珠贝壳挖墓穴。那块珍珠贝壳边缘尖锐,又大又光滑。掘土的时候,月光照在贝壳背面闪闪发亮。周围有一股湿润的泥土味道。墓穴不久就挖好了。我把女子安放其中,轻轻撒上柔软的泥土。撒上泥土的时候,珍珠贝壳的背面反复映射着月光。
然后,我捡了掉落的星星的碎片,轻搁于墓穴的泥土上面。星星的碎片是圆的,我想,或许是在空中漫长的坠落过程中,棱角逐渐被磨去而变得圆滑吧。我把星片抱起搁在土堆上,觉得胸口与双手渐渐暖了起来。
我坐在青苔上,抱着胳膊注视着圆圆的墓碑,想到此后百年就这样等候下去。那时,犹如女子所讲,太阳从东方升起,是一个又大又红的太阳。同时,又如女子所讲,太阳不久从西方沉了下去。火红火红的太阳倏地沉了下去。我数道,第一个了。
不久,红彤彤的太阳又缓缓升起。然后,默默西沉。我又数道,第二个了。
就这样,一个两个数着数着,渐渐搞不清楚见到几个红太阳。数呀,数呀,数不尽的红太阳从头上越过。然而,仍然未满百年。最后,望着布满青苔圆圆的墓碑,突然想到:我是不是被女子骗了。
恰在此时,墓碑下面竟然有一条青色的茎向我斜伸过来。眼见它越来越长直至伸到我的胸口。晃动着的修长茎尖上,一枚略微斜倾的修长花蕾绽放出丰满的花瓣。雪白的百合芬芳四溢,沁人肺腑。就在那时,露水从高不可测的天际啪嗒滴了下来,百合花因为自身的重量而晃晃悠悠。我把头向前探出,吻了滴落着冰凉露水的雪白花瓣,把脸从百合移开的时候,禁不住望了望遥远的天空,只有一颗晨星闪烁不已。
此时我才领悟到:『原来百年已到了。』
第二夜
こんな夢を見た。
和尚の室を退がって、廊下伝いに自分の部屋へ帰ると行灯がぼんやり点っている。片膝を座蒲団の上に突いて、灯心を掻き立てたとき、花のような丁子がぱたりと朱塗の台に落ちた。同時に部屋がぱっと明かるくなった。
襖の画は蕪村の筆である。黒い柳を濃く薄く、遠近とかいて、寒むそうな漁夫が笠を傾けて土手の上を通る。床には海中文殊の軸が懸っている。焚き残した線香が暗い方でいまだに臭っている。広い寺だから森閑として、人気がない。黒い天井に差す丸行灯の丸い影が、仰向く途端に生きてるように見えた。
立膝をしたまま、左の手で座蒲団を捲って、右を差し込んで見ると、思った所に、ちゃんとあった。あれば安心だから、蒲団をもとのごとく直して、その上にどっかり坐った。
お前は侍である。侍なら悟れぬはずはなかろうと和尚が云った。そういつまでも悟れぬところをもって見ると、御前は侍ではあるまいと言った。人間の屑じゃと言った。ははあ怒ったなと云って笑った。口惜しければ悟った証拠を持って来いと云ってぷいと向をむいた。怪しからん。
隣の広間の床に据えてある置時計が次の刻を打つまでには、きっと悟って見せる。悟った上で、今夜また入室する。そうして和尚の首と悟りと引替にしてやる。悟らなければ、和尚の命が取れない。どうしても悟らなければならない。自分は侍である。
もし悟れなければ自刃する。侍が辱しめられて、生きている訳には行かない。綺麗に死んでしまう。
こう考えた時、自分の手はまた思わず布団の下へ這入った。そうして朱鞘の短刀を引き摺り出した。ぐっと束を握って、赤い鞘を向へ払ったら、冷たい刃が一度に暗い部屋で光った。凄いものが手元から、すうすうと逃げて行くように思われる。そうして、ことごとく切先へ集まって、殺気を一点に籠めている。自分はこの鋭い刃が、無念にも針の頭のように縮められて、九寸五分の先へ来てやむをえず尖ってるのを見て、たちまちぐさりとやりたくなった。身体の血が右の手首の方へ流れて来て、握っている束がにちゃにちゃする。唇が顫えた。
短刀を鞘へ収めて右脇へ引きつけておいて、それから全伽を組んだ。――趙州曰く無と。無とは何だ。糞坊主めとはがみをした。
奥歯を強く咬み締めたので、鼻から熱い息が荒く出る。こめかみが釣って痛い。眼は普通の倍も大きく開けてやった。
懸物が見える。行灯が見える。畳が見える。和尚の薬缶頭がありありと見える。鰐口を開いて嘲笑った声まで聞える。怪しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。悟ってやる。無だ、無だと舌の根で念じた。無だと云うのにやっぱり線香の香がした。何だ線香のくせに。
自分はいきなり拳骨を固めて自分の頭をいやと云うほど擲った。そうして奥歯をぎりぎりと噛んだ。両腋から汗が出る。背中が棒のようになった。膝の接目が急に痛くなった。膝が折れたってどうあるものかと思った。けれども痛い。苦しい。無はなかなか出て来ない。出て来ると思うとすぐ痛くなる。腹が立つ。無念になる。非常に口惜しくなる。涙がほろほろ出る。ひと思に身を巨巌の上にぶつけて、骨も肉もめちゃめちゃに砕いてしまいたくなる。
それでも我慢してじっと坐っていた。堪えがたいほど切ないものを胸に盛れて忍んでいた。その切ないものが身体中の筋肉を下から持上げて、毛穴から外へ吹き出よう吹き出ようと焦るけれども、どこも一面に塞がって、まるで出口がないような残刻極まる状態であった。
そのうちに頭が変になった。行灯も蕪村の画も、畳も、違棚も有って無いような、無くって有るように見えた。と云って無はちっとも現前しない。ただ好加減に坐っていたようである。ところへ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた。
はっと思った。右の手をすぐ短刀にかけた。時計が二つ目をチーンと打った。
第二夜
有梦如斯。
退出和尚的房间,沿着走廊走回自己的房间,只见房里已点了昏黄的座灯。单膝跪在座垫上挑亮灯芯的时候,花一样的丁香突然掉到了朱漆的灯台上。同时,房间顿时变得明亮了。
隔扇的画出自芜村之手。黑色的柳枝浓淡分明,有远有近,寒缩的渔夫斜戴着斗笠,走在河堤上。壁龛有文殊菩萨的挂轴。仍未燃尽的线香,在黑暗之处仍飘荡着香气。寺院很大,故而万籁俱寂而冷森。抬头望见阴暗的天花板上圆形座灯那圆圆的影子,那些影子仿佛活物一般。
我依然单膝而跪,用左手掀起坐垫,右手伸进去一探,那东西果然还在。既然这样就安心了。把坐垫弄回原状,稳稳坐在了上面。
和尚说了:『你是武士。既是武士,就不会悟通不了。』又说:『看你总是无法悟通的样子,怎么可能是武士!简直是人类的渣滓嘛。』『哈哈,生气了啊!』『心有不甘的话,就拿出已经悟通的证据来吧!』说完和尚立时转过头去。真是岂有此理!
隔壁大厅壁龛的座钟敲响下一个时刻以前,我一定悟通给你看!只要我悟通了,今夜再去和尚的房间。然后,以我的悟通交换和尚的首级。若是没有悟通,就不能夺走和尚的性命了。不管怎样,非要悟通不可。我可是一名武士。
若是无法悟通,只能自杀了。武士一旦受辱,怎能苟且偷生?不如死得壮烈。
想着想着,禁不住手又伸到了坐垫下,抽出一把朱鞘短刀。用力握住刀柄,退去刀鞘后,冰冷的刀刃在昏暗的房间一下子闪烁出光芒。似乎一种强大的东西自我手中嗖嗖奔逃出去,悉数聚集于刀锋,把所有的杀气凝聚于一点。看着锋利的刀刃被缩为针头一样,匕首的顶端也变得锐利无比,顿时产生一种捅人一刀的冲动。身体的血液流向右手手腕,握着的刀柄变得黏糊糊的,嘴唇则哆嗦不已。
把短刀收进鞘内搁置于右侧,我结跏趺坐。——赵州曰无。何谓无?『臭和尚!』我咬牙切齿骂了一声。
由于臼齿咬得太用力,鼻孔直冒热气,太阳穴抽筋很痛。眼睛睁得比平时大了两倍。
我见得到挂轴,见得到座灯,见得到榻榻米,和尚的光头也清晰可见,甚至听到和尚张开血盆大口嘲笑的声音。真是蛮不讲理的和尚。非要把那个光头砍下来不可。我悟给你看。舌头念着:『无!无!』明明说了『无』了,还是有线香的香气。怎么回事!区区线香罢了。
我突然握紧拳头狠狠打自己的头,用尽全力咬紧臼齿。两腋汗如雨下,背部酸痛僵硬,膝盖突然疼痛不堪。膝盖断了,算得了什么!但是,太痛了。难受死了。『无』仍旧没有出现。『无』快出来的时候,立刻就痛了起来。气死人了。真是懊恼,太不甘心了。泪流满面。真想心一横撞向巨岩,让自己粉身碎骨。
即便如此,我还是坚持一动不动趺坐着,忍受着充斥内心无法忍受的烦闷。那种烦闷拼命要支起全身的筋肉,从毛孔涌到外面。但是,每一个地方都被封死了,一种没有任何出口的残酷状态。
不久,脑子有了异样的感觉。座灯、芜村的画、榻榻米、棚架变得若有若无。话虽如此,『无』并没有现身于眼前。我似乎只是随意坐着。这时,隔壁房间的座钟响了起来。
我一惊,右手马上搁在短刀上。时钟敲了第二下。
第三夜
こんな夢を見た。
六つになる子供を負ってる。たしかに自分の子である。ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている。自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、なに昔からさと答えた。声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である。しかも対等だ。
左右は青田である。路は細い。鷺の影が時々闇に差す。
「田圃へかかったね」と背中で云った。
「どうして解る」と顔を後ろへ振り向けるようにして聞いたら、
「だって鷺が鳴くじゃないか」と答えた。
すると鷺がはたして二声ほど鳴いた。
自分は我子ながら少し怖くなった。こんなものを背負っていては、この先どうなるか分らない。どこか打遣る所はなかろうかと向うを見ると闇の中に大きな森が見えた。あすこならばと考え出す途端に、背中で、
「ふふん」と云う声がした。
「何を笑うんだ」
子供は返事をしなかった。ただ
「御父さん、重いかい」と聞いた。
「重かあない」と答えると
「今に重くなるよ」と云った。
自分は黙って森を目標にあるいて行った。田の中の路が不規則にうねってなかなか思うように出られない。しばらくすると二股になった。自分は股の根に立って、ちょっと休んだ。
「石が立ってるはずだがな」と小僧が云った。
なるほど八寸角の石が腰ほどの高さに立っている。表には左り日ケ窪、右堀田原とある。闇だのに赤い字が明かに見えた。赤い字は井守の腹のような色であった。
「左が好いだろう」と小僧が命令した。左を見るとさっきの森が闇の影を、高い空から自分らの頭の上へ抛げかけていた。自分はちょっと躊躇した。
「遠慮しないでもいい」と小僧がまた云った。自分は仕方なしに森の方へ歩き出した。腹の中では、よく盲目のくせに何でも知ってるなと考えながら一筋道を森へ近づいてくると、背中で、「どうも盲目は不自由でいけないね」と云った。
「だから負ってやるからいいじゃないか」
「負ぶって貰ってすまないが、どうも人に馬鹿にされていけない。親にまで馬鹿にされるからいけない」
何だか厭になった。早く森へ行って捨ててしまおうと思って急いだ。
「もう少し行くと解る。――ちょうどこんな晩だったな」と背中で独言のように云っている。
「何が」と際どい声を出して聞いた。
「何がって、知ってるじゃないか」と子供は嘲けるように答えた。すると何だか知ってるような気がし出した。けれども判然とは分らない。ただこんな晩であったように思える。そうしてもう少し行けば分るように思える。分っては大変だから、分らないうちに早く捨ててしまって、安心しなくってはならないように思える。自分はますます足を早めた。
雨はさっきから降っている。路はだんだん暗くなる。ほとんど夢中である。ただ背中に小さい小僧がくっついていて、その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照して、寸分の事実も洩らさない鏡のように光っている。しかもそれが自分の子である。そうして盲目である。自分はたまらなくなった。
「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」
雨の中で小僧の声は判然聞えた。自分は覚えず留った。いつしか森の中へ這入っていた。一間ばかり先にある黒いものはたしかに小僧の云う通り杉の木と見えた。
「御父さん、その杉の根の処だったね」
「うん、そうだ」と思わず答えてしまった。
「文化五年辰年だろう」
なるほど文化五年辰年らしく思われた。
「御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」
自分はこの言葉を聞くや否や、今から百年前文化五年の辰年のこんな闇の晩に、この杉の根で、一人の盲目を殺したと云う自覚が、忽然として頭の中に起った。おれは人殺であったんだなと始めて気がついた途端に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。
第三夜
有梦如斯。
我背着一个六岁的小孩。确实是自己的小孩。只是很奇怪,不知何时,他的眼睛竟然失明了,变成一个乳臭未干的光头小子。我问:『你的眼睛什么时候瞎的?』他回说:『什么呀,老早啦。』声音确实是小孩的声音,措辞却宛如大人一样。而且,是与我同等的语气。
两侧是青嫩稻田,路很窄,鹭鸶的影子不时从黑夜中掠过。
『经过稻田了吧。』小孩在背后说道。
『你怎么知道?』我回头问他。
『鹭鸶不是在叫吗?』他答道。
这时,鹭鸶果然叫了一两声。
虽是自己的孩子,我却感到有点恐惧。背着这么一个人,不知道接下来会怎么样。想着有没有地方可以弃之不顾,望了一下对面,黑夜中隐约可见一大片森林。刚刚觉得那是一个再好不过的选择,背后突然响起『呵呵』的一声笑。
『你笑什么呢?』
小孩没有回答,只是问道:『老爸,重不重呀?』
『不重不重。』
『很快就变重了哟。』
我沉默不语,向着森林走。田间小径蜿蜒曲折,走来走去到不了森林。不一会儿,路分成两条叉径。我站在叉径口,休息了一下。
『应该有块石碑立在这儿吧。』小毛头说道。
果然有块及腰的八寸角石立在路间,上头写着:『左边日洼,右边堀田原』。明明是夜晚,石上的红字却清晰可见,文字的颜色犹如蝾螈腹部般红。
『往左走吧!』小毛头下了命令。往左一看,刚才见到的森林阴森的影子,从高高的天空压向我们的头顶。我有些犹豫了。
『不用顾虑了。』小毛头又说道。
我唯有走向森林。心中暗忖:『眼睛瞎了,还真的什么都知道啊。』沿着唯一的一条路走近森林的时候,小毛头又在背后说道:『眼睛瞎了,真不方便啊。』
『不是有我背你嘛,哪有什么不方便?』
『让你背着我挺难为情的。被人瞧不起不好,甚至父母也瞧不起我,没指望了。』
我不由得感到一种厌烦,想早点赶到森林把他遗弃了,加快了脚步。
『再走一会儿你就明白了……那会儿刚好就是这样的夜晚吧。』他在背后自言自语。
『什么?』我大声问道。
『还问什么,自己心里不是十分明白吗?』小孩嘲弄似的答道。
听了他的话,我觉得自己似乎已经明白了。但是,不是十分清楚。只是觉得好像也是这样的夜晚,觉得再走一下就会明白了。感到明白过来就糟了,所以一定要乘着还没明白,早点把他遗弃才安心。我的脚步变得更快了。
雨已下了一阵子,路越来越暗了,恍如梦境。只是背上缠着一个小毛头。这个小毛头犹如一面闪亮的镜子,把我的过去、现在、未来全都照了出来,一点事实也没有遗漏。不仅如此,他还是我的孩子,又是一个瞎子。我越来越受不了了。
『就是这里!就是这里!就是那棵杉树的下面!』
雨中,小毛头的声音十分清晰。我不由自主地站住了,不知何时我们已置身森林当中。前方两三米左右有一个漆黑的物体,看起来确实是小毛头说的杉树。
『老爸,是在那棵杉树的下面吧。』
『嗯,是的。』我禁不住答道。
『是文化五年辰年吧?』
想一想,似乎真是文化五年。
『你杀我的时候,正好是百年以前的今天呢。』
一听到这句话,脑海中突然想起来,百年以前的今天,也就是文化五年,在这样漆黑的夜晚,在这棵杉树的下面,自己杀了一个盲人。我才意识到自己原来是一个杀人犯,背上的孩子突然沉重起来,犹如地藏菩萨的石像。
第四夜
広い土間の真中に涼み台のようなものを据えて、その周囲に小さい床忌が並べてある。台は黒光りに光っている。片隅には四角な膳を前に置いて爺さんが一人で酒を飲んでいる。肴は煮しめらしい。
爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。その上顔中つやつやして皺と云うほどのものはどこにも見当らない。ただ白い髯をありたけ生やしているから年寄と云う事だけはわかる。自分は子供ながら、この爺さんの年はいくつなんだろうと思った。ところへ裏の筧から手桶に水を汲んで来た神さんが、前垂で手を拭きながら、
「御爺さんはいくつかね」と聞いた。爺さんは頬張った煮めを呑み込んで、
「いくつか忘れたよ」と澄ましていた。神さんは拭いた手を、細い帯の間に挟んで横から爺さんの顔を見て立っていた。爺さんは茶碗のような大きなもので酒をぐいと飲んで、そうして、ふうと長い息を白い髯の間から吹き出した。すると神さんが、
「御爺さんの家はどこかね」と聞いた。爺さんは長い息を途中で切って、
「臍の奥だよ」と云った。神さんは手を細い帯の間に突込んだまま、
「どこへ行くかね」とまた聞いた。すると爺さんが、また茶碗のような大きなもので熱い酒をぐいと飲んで前のような息をふうと吹いて、
「あっちへ行くよ」と云った。
「真直かい」と神さんが聞いた時、ふうと吹いた息が、障子を通り越して柳の下を抜けて、河原の方へ真直に行った。
爺さんが表へ出た。自分も後から出た。爺さんの腰に小さい瓢箪がぶら下がっている。肩から四角な箱を腋の下へ釣るしている。浅黄の股引を穿いて、浅黄の袖無しを着ている。足袋だけが黄色い。何だか皮で作った足袋のように見えた。
爺さんが真直に柳の下まで来た。柳の下に子供が三四人いた。爺さんは笑いながら腰から浅黄の手拭を出した。それを肝心綯のように細長く綯った。そうして地面の真中に置いた。それから手拭の周囲に、大きな丸い輪を描いた。しまいに肩にかけた箱の中から真鍮で製らえた飴屋の笛を出した。
「今にその手拭が蛇になるから、見ておろう。見ておろう」と繰返して云った。
子供は一生懸命に手拭を見ていた。自分も見ていた。
「見ておろう、見ておろう、好いか」と云いながら爺さんが笛を吹いて、輪の上をぐるぐる廻り出した。自分は手拭ばかり見ていた。けれども手拭はいっこう動かなかった。
爺さんは笛をぴいぴい吹いた。そうして輪の上を何遍も廻った。草鞋を爪立てるように、抜足をするように、手拭に遠慮をするように、廻った。怖そうにも見えた。面白そうにもあった。
やがて爺さんは笛をぴたりとやめた。そうして、肩に掛けた箱の口を開けて、手拭の首を、ちょいと撮んで、ぽっと放り込んだ。
「こうしておくと、箱の中で蛇になる。今に見せてやる。今に見せてやる」と云いながら、爺さんが真直に歩き出した。柳の下を抜けて、細い路を真直に下りて行った。自分は蛇が見たいから、細い道をどこまでも追いて行った。爺さんは時々「今になる」と云ったり、「蛇になる」と云ったりして歩いて行く。しまいには、
「今になる、蛇になる、
きっとなる、笛が鳴る、」
と唄いながら、とうとう河の岸へ出た。橋も舟もないから、ここで休んで箱の中の蛇を見せるだろうと思っていると、爺さんはざぶざぶ河の中へ這入り出した。始めは膝くらいの深さであったが、だんだん腰から、胸の方まで水に浸って見えなくなる。それでも爺さんは
「深くなる、夜になる、
真直になる」
と唄いながら、どこまでも真直に歩いて行った。そうして髯も顔も頭も頭巾もまるで見えなくなってしまった。
自分は爺さんが向岸へ上がった時に、蛇を見せるだろうと思って、蘆の鳴る所に立って、たった一人いつまでも待っていた。けれども爺さんは、とうとう上がって来なかった。
第四夜
宽敞的泥地房间的中央,放着一个类似纳凉长凳的东西,周围摆放着小折凳。长凳乌黑发亮。角落里,一个老爹坐在四方形的饭桌前面自斟自饮。下酒菜好像是红烧豆腐。
老爹喝着喝着,已经满脸通红。而且,他的脸十分光润,看不到一点皱纹。只是那一大把银白的胡须透露出他已经年纪不小了。我是一个孩子,想着老爹的年纪应是几岁。这时,老板娘从后面的引水管提水回来了,用围裙擦了擦手问道:
『老爹几岁了?』
老爹吞下嘴里的酒菜,装模作样地说:
『我也忘了。』
老板娘擦干了手以后,把手插在细长的腰带里面,站在旁边看着老爹的脸。老爹大口喝大碗里的酒,然后从银白的长须间长呼出一口气。老板娘问道:
『老爹住在哪里?』
老爹停止了长长的呼气,答道:
『肚脐里头。』
老板娘依旧把手插在腰带上,又问道:
『要去哪里呢?』
老爹又用那个大若饭碗的容器喝下一碗热酒,像刚才那样呼出一大口气,回道:
『要去那边哟。』
『直走吗?』老板娘问道,这时,老爹呼出的气息早己越过纸窗穿过柳树下,往河滩方向直去。
老爹走到外头,我也紧跟其后。老爹腰上挂着一个小葫芦,肩上挎着一个四方形盒子垂于腋下。身穿浅黄色的窄长裤与浅黄色的无袖背心。只有布袜是黄色的,看上去好像皮制的。
老爹笔直走到柳树下。柳树下有三四个孩子。老爹笑着从腰间取出一条浅黄手巾,把它捻得像纸捻一样细长细长,放在地面中央。然后在手巾四周画了一个大圆圈。最后,从挎在肩上的盒子中拿出一个糖果商人的黄铜哨子。
『这条手巾很快就会变成一条蛇了,注意看啊!注意了!』老爹反复说道。
孩子们拼命盯着手巾,我也一直盯着。
『看好了!看好了!准备好了吗?』老爹边说边吹起哨子,又绕着圆圈走动。我盯着手巾,可是没有任何动静。
老爹一直在哔哔地吹着哨子,也绕着圆圈转了好几圈——似乎踮起脚尖,似乎蹑手蹑脚,又似乎对手巾有所顾虑。显得可怕,又有些可笑。
不久,老爹的哨音戛然而止,打开垂挎在肩上的盒子,轻轻抓住手巾一角,一下子抛了进去。
『这样一来,手巾在盒子中就会变成蛇。等一下给你们看!等一下给你们看!』老爹边说边向前直走,穿过柳树并顺着小路笔直下去。我想看蛇,就沿着小路紧追不舍。老爹边走边说:『很快』、『变成蛇了』,最后竟唱了起来:
『很快就变,手巾成蛇,一定会变,哨子响了。』
唱着唱着,老爹终于走到河边。既没有桥也没有船,我就以为他也许会在此休息,把盒里的蛇给我看,没想到他竟然哗啦哗啦地走到河里。起初,水深及膝,逐渐到了腰部,最后胸口也泡在水中看不见了。可是老爹仍在唱着:
『水深了,夜深了,路直了。』
老爹一边唱一边依旧笔直前走。然后,胡子、脸、头、头巾都消失不见了。
我以为,老爹走上河对岸的时候,就给人看盒子里的蛇,所以一直独自一人站在沙沙作响的芦草丛中等着。但是,老爹最终都没有上岸。
第五夜
こんな夢を見た。
何でもよほど古い事で、神代に近い昔と思われるが、自分が軍をして運悪く敗北たために、生擒になって、敵の大将の前に引き据えられた。
その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髯を生やしていた。革の帯を締めて、それへ棒のような剣を釣るしていた。弓は藤蔓の太いのをそのまま用いたように見えた。漆も塗ってなければ磨きもかけてない。極めて素樸なものであった。
敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて、酒甕を伏せたようなものの上に腰をかけていた。その顔を見ると、鼻の上で、左右の眉が太く接続っている。その頃髪剃と云うものは無論なかった。
自分は虜だから、腰をかける訳に行かない。草の上に胡坐をかいていた。足には大きな藁沓を穿いていた。この時代の藁沓は深いものであった。立つと膝頭まで来た。その端の所は藁を少し編残して、房のように下げて、歩くとばらばら動くようにして、飾りとしていた。
大将は篝火で自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。これはその頃の習慣で、捕虜にはだれでも一応はこう聞いたものである。生きると答えると降参した意味で、死ぬと云うと屈服しないと云う事になる。自分は一言死ぬと答えた。大将は草の上に突いていた弓を向うへ抛げて、腰に釣るした棒のような剣をするりと抜きかけた。それへ風に靡いた篝火が横から吹きつけた。自分は右の手を楓のように開いて、掌を大将の方へ向けて、眼の上へ差し上げた。待てと云う相図である。大将は太い剣をかちゃりと鞘に収めた。
その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女に逢いたいと云った。大将は夜が開けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。
大将は腰をかけたまま、篝火を眺めている。自分は大きな藁沓を組み合わしたまま、草の上で女を待っている。夜はだんだん更ける。
時々篝火が崩れる音がする。崩れるたびに狼狽えたように焔が大将になだれかかる。真黒な眉の下で、大将の眼がぴかぴかと光っている。すると誰やら来て、新しい枝をたくさん火の中へ抛げ込んで行く。しばらくすると、火がぱちぱちと鳴る。暗闇を弾き返すような勇ましい音であった。
この時女は、裏の楢の木に繋いである、白い馬を引き出した。鬣を三度撫でて高い背にひらりと飛び乗った。鞍もない鐙もない裸馬であった。長く白い足で、太腹を蹴ると、馬はいっさんに駆け出した。誰かが篝りを継ぎ足したので、遠くの空が薄明るく見える。馬はこの明るいものを目懸けて闇の中を飛んで来る。鼻から火の柱のような息を二本出して飛んで来る。それでも女は細い足でしきりなしに馬の腹を蹴っている。馬は蹄の音が宙で鳴るほど早く飛んで来る。女の髪は吹流しのように闇の中に尾を曳いた。それでもまだ篝のある所まで来られない。
すると真闇な道の傍で、たちまちこけこっこうという鶏の声がした。女は身を空様に、両手に握った手綱をうんと控えた。馬は前足の蹄を堅い岩の上に発矢と刻み込んだ。
こけこっこうと鶏がまた一声鳴いた。
女はあっと云って、緊めた手綱を一度に緩めた。馬は諸膝を折る。乗った人と共に真向へ前へのめった。岩の下は深い淵であった。
蹄の跡はいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似をしたものは天探女である。この蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である。
第五夜
有梦如斯。
是很久以前的事了,应是两千多年前的神话时代,我参军不幸战败而成为俘虏,被拉到敌方大将面前。
当时,人人都是身材魁梧,蓄着很长的胡须。腰上系着皮制的腰带,腰悬犹如棒子的长剑。弓似乎就是直接用了粗藤,既没涂上黑漆也没磨过,十分简陋。
敌方大将坐在一个倒置的酒瓮上,右手握着弓的中间,把弓支在草上。我看了看他的脸,只见鼻子上方的左右浓眉连成一线。那个时代当然没有剃须刀之类的东西。
我是一名俘虏,也就没有位子可坐,只在草丛上盘腿而坐。脚上穿着一双大草鞋,那个时代草鞋的鞋帮子都很高,立起的时候高及膝盖。鞋帮上端留着一小截没有编完的稻草,像穗子一样垂着,走起路来晃来晃去,当做装饰。
大将借着篝火盯着我的脸,问我要活还是想死。这是当时的习惯,谁都会问俘虏相同的问题。若是回答要活,就表示投降了;若是回答要死,就代表绝不屈服。我简短回道:『要死。』
大将把支在草上的弓抛向一边,拔出悬在腰上的长剑。此时,篝火随风而动,火舌舔及长剑。我把右手手掌如枫叶一样张开,手掌朝着大将的方向,提到眼睛之上。这是表示『且慢』的手势,大将于是咔嚓一声收回了长剑。
那个时代,也有爱情的存在。我说了,希望临死之前见一见自己思念的恋人。大将说,可以等到天明鸡啼之时,你一定要把恋人在鸡啼之前叫到此处。若鸡啼以后恋人没有来,我就不能与之相见并被杀死。
大将一直坐着,凝视篝火。我两脚相叠,把大草鞋叠在一起,坐在草丛上等候恋人。夜,越来越深。
偶尔响起篝火爆裂的声音。每当篝火爆裂,火焰就仓皇万分似的窜向大将。浓眉之下,大将的眼睛炯炯有神。然后,就有人把很多树枝抛入火中。过了一会儿,火势又会啪吱啪吱旺盛起来。那种声音十分勇猛,似乎要驱逐黑暗一般。
此时,恋人正牵出一匹系于后院橡树的白马,轻抚了三次马的鬃毛,敏捷地跃上高高的马背。那马既没有马鞍也没有踩镫。恋人那修长雪白的双脚蹬了一下马腹,马儿一溜烟飞奔出去。
有人在篝火中添了树枝,因此,远方的天空显得有些明亮。马儿朝着这亮光飞奔而来,鼻子喷出两道宛如火柱的气息飞奔而来。即使如此,恋人仍反复用修长的双腿蹬着马腹。马儿飞奔而来,马蹄声几乎响彻空中。恋人的长发宛如幡旗在黑暗中飞扬。然而,仍然没有到达篝火之处。
这时,黑漆漆的路旁突然响起『咯咯咯』的鸡啼声。恋人身子往上一提,用力拉住手中的缰绳。马儿的前蹄当啷一声深深陷入坚硬的岩石。
『咯咯咯』的鸡啼声又响了一下。
恋人惊喊一声,放松了收紧的缰绳。马儿屈膝,与骑乘的人一起向前倾倒。岩石下面,是万丈深渊。
马蹄的印痕仍清晰地留在岩石上面。假装鸡啼的是天探女。只要这马蹄印痕还印在岩石上面,天探女永远是我的敌人。
第六夜
〔1〕運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいると云う評判だから、散歩ながら行って見ると、自分より先にもう大勢集まって、しきりに下馬評をやっていた。
山門の前五六間の所には、大きな赤松があって、その幹が斜めに山門の甍を隠して、遠い青空まで伸びている。松の緑と朱塗の門が互いに照り合ってみごとに見える。その上松の位地が好い。門の左の端を眼障にならないように、斜に切って行って、上になるほど幅を広く屋根まで突出しているのが何となく古風である。鎌倉時代とも思われる。
ところが見ているものは、みんな自分と同じく、明治の人間である。その中でも車夫が一番多い。辻待をして退屈だから立っているに相違ない。
「大きなもんだなあ」と云っている。
「人間を拵えるよりもよっぽど骨が折れるだろう」とも云っている。
そうかと思うと、「へえ仁王だね。今でも仁王を彫るのかね。へえそうかね。私ゃまた仁王はみんな古いのばかりかと思ってた」と云った男がある。
「どうも強そうですね。なんだってえますぜ。昔から誰が強いって、仁王ほど強い人あ無いって云いますぜ。何でも〔2〕日本武尊よりも強いんだってえからね」と話しかけた男もある。この男は尻を端折って、帽子を被らずにいた。よほど無教育な男と見える。
運慶は見物人の評判には委細頓着なく鑿と槌を動かしている。いっこう振り向きもしない。高い所に乗って、仁王の顔の辺をしきりに彫り抜いて行く。
運慶は頭に小さい烏帽子のようなものを乗せて、素袍だか何だかわからない大きな袖を背中で括っている。その様子がいかにも古くさい。わいわい云ってる見物人とはまるで釣り合が取れないようである。自分はどうして今時分まで運慶が生きているのかなと思った。どうも不思議な事があるものだと考えながら、やはり立って見ていた。
しかし運慶の方では不思議とも奇体ともとんと感じ得ない様子で一生懸命に彫っている。仰向いてこの態度を眺めていた一人の若い男が、自分の方を振り向いて、
「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄はただ仁王と我れとあるのみと云う態度だ。天晴れだ」と云って賞め出した。
自分はこの言葉を面白いと思った。それでちょっと若い男の方を見ると、若い男は、すかさず、
「あの鑿と槌の使い方を見たまえ。大自在の妙境に達している」と云った。
運慶は今太い眉を一寸の高さに横へ彫り抜いて、鑿の歯を竪に返すや否や斜すに、上から槌を打ち下した。堅い木を一と刻みに削って、厚い木屑が槌の声に応じて飛んだと思ったら、小鼻のおっ開いた怒り鼻の側面がたちまち浮き上がって来た。その刀の入れ方がいかにも無遠慮であった。そうして少しも疑念を挾んでおらんように見えた。
「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉や鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。するとさっきの若い男が、
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。
自分はこの時始めて彫刻とはそんなものかと思い出した。はたしてそうなら誰にでもできる事だと思い出した。それで急に自分も仁王が彫ってみたくなったから見物をやめてさっそく家へ帰った。
道具箱から鑿と金槌を持ち出して、裏へ出て見ると、せんだっての暴風で倒れた樫を、薪にするつもりで、木挽に挽かせた手頃な奴が、たくさん積んであった。
自分は一番大きいのを選んで、勢いよく彫り始めて見たが、不幸にして、仁王は見当らなかった。その次のにも運悪く掘り当てる事ができなかった。三番目のにも仁王はいなかった。自分は積んである薪を片っ端から彫って見たが、どれもこれも仁王を蔵しているのはなかった。ついに明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。
第六夜
风传运庆正在护国寺山门雕凿仁王像,于是散步时顺便去了一下,没想到早已观客云集,你一言我一语地议论纷纷。
山门前面二十来米远的地方,有一棵巨大的红松,斜着的树干遮蔽了山门的瓦房顶,伸向高高的蓝天。绿松与朱门相映成趣,真乃美景。而且,松树的位置绝佳,在山门左侧斜切向上延伸而没有碍眼,越往上越繁茂以至触及屋顶,有一种古意盎然的印象。应是镰仓时代吧。
但是,四周围观的人与我一样都是明治时代的人。其中,人力车车夫最多。一定是等候载客感到无聊,来到此处。
『真是很大啊!』有人说道。
『一定比雕凿人像更加费心血吧!』又有人说。
『啊!是仁王啊。现在还有人在雕凿仁王啊。啊,真的呀。我还以为仁王像都是古时凿的。』有一个男子说道。
『真的很威武啊。从古至今谁最厉害呢,都说仁王举世无双,甚至比日本武尊更强大呢!』另一个男子接着说道。这男子掖起后衣襟,没戴帽子,看起来是一个缺乏教养的人。
运庆毫不理会围观者的议论,一门心思挥动着手中的凿子和锤子,谁也没有理睬。他人在高处,仔细雕凿着仁王的脸部周围。
运庆头上戴着一顶像是黑漆帽子的东西,身穿一件似乎是素袍之类的衣服,宽大的两袖缚于背部。装束十分古老,与四周喋喋不休的围观人群格格不入。我想着:『运庆为何可以活到现在,真是不可思议啊。』仍然站在那里注视着。
但是,运庆本人似乎一点儿也没有感到奇怪,专心致志地雕凿着。一个仰头看着运庆神情的年轻男子,转头对我赞赏道:
『真不愧是运庆!不把我们放在眼里呀。那种神情仿佛在说:「天下英雄唯有仁王与我」。真是太厉害了!』
我觉得他说的很有趣,看了他一眼,他立刻又说道:
『看一看他用凿子和锤的方式!真是达到运用自如的境界!』
运庆现在凿着约有一寸粗的眉毛,手中的凿尖刚才还是竖着,转而斜立,自上用木槌敲打。在坚硬的木头上凿削出一个『一』字,厚厚的木屑随着木槌声飞落,仁王鼻翼微张的轮廓乍然浮现。刀法异常利落,而且看起来没有一丝迟疑的样子。
『太厉害了!可以如此轻而易举用凿子雕出自己心里想的眉毛与鼻子!』由于十分佩服,我禁不住自言自语。
刚刚那个年轻男子回我说:
『什么啊!眉毛与鼻子根本不是凿子雕成。只不过他用凿子和木槌把埋在木头里面的眉毛与鼻子挖出来罢了。正像从土中挖出石头一样,当然不会出错了。』
这时,我才明白:『原来所谓的雕刻就是那样啊。果真如此的话,谁都能够做到了。』想到这里,自己也突然产生雕凿仁王像的念头,没有再看下去,回了家。
我从工具箱拿出凿子和木槌,到了后院,那里堆积着很多橡木块。前几天像木被暴风刮倒,我请伐木工人锯成大小适中的木块,用作柴火。
我选了一块最大的木头,兴致勃勃地开始雕凿。不幸的是,看不见仁王。很不幸,第二块木头也没有挖出仁王。第三块木头还是没有仁王。我抓起木块就凿,没有一块木头埋藏了仁王。最后,我领悟了,仁王根本没有藏于明治时代的木头里,也明白了运庆至今仍然活着的理由。
第七夜
何でも大きな船に乗っている。
この船が毎日毎夜すこしの絶間なく黒い煙を吐いて浪を切って進んで行く。凄じい音である。けれどもどこへ行くんだか分らない。ただ波の底から焼火箸のような太陽が出る。それが高い帆柱の真上まで来てしばらく挂っているかと思うと、いつの間にか大きな船を追い越して、先へ行ってしまう。そうして、しまいには焼火箸のようにじゅっといってまた波の底に沈んで行く。そのたんびに蒼い波が遠くの向うで、蘇枋の色に沸き返る。すると船は凄じい音を立ててその跡を追かけて行く。けれども決して追つかない。
ある時自分は、船の男を捕まえて聞いて見た。
「この船は西へ行くんですか」
船の男は怪訝な顔をして、しばらく自分を見ていたが、やがて、
「なぜ」と問い返した。
「落ちて行く日を追かけるようだから」
船の男はからからと笑った。そうして向うの方へ行ってしまった。
「西へ行く日の、果は東か。それは本真か。東出る日の、御里は西か。それも本真か。身は波の上。楫を枕。流せ流せ」と囃している。舳へ行って見たら、水夫が大勢寄って、太い帆綱を手繰っていた。
自分は大変心細くなった。いつ陸へ上がれる事か分らない。そうしてどこへ行くのだか知れない。ただ黒い煙を吐いて波を切って行く事だけはたしかである。その波はすこぶる広いものであった。際限もなく蒼く見える。時には紫にもなった。ただ船の動く周囲だけはいつでも真白に泡を吹いていた。自分は大変心細かった。こんな船にいるよりいっそ身を投げて死んでしまおうかと思った。
乗合はたくさんいた。たいていは異人のようであった。しかしいろいろな顔をしていた。空が曇って船が揺れた時、一人の女が欄に倚りかかって、しきりに泣いていた。眼を拭く手巾の色が白く見えた。しかし身体には更紗のような洋服を着ていた。この女を見た時に、悲しいのは自分ばかりではないのだと気がついた。
ある晩甲板の上に出て、一人で星を眺めていたら、一人の異人が来て、天文学を知ってるかと尋ねた。自分はつまらないから死のうとさえ思っている。天文学などを知る必要がない。黙っていた。するとその異人が金牛宮の頂にある七星の話をして聞かせた。そうして星も海もみんな神の作ったものだと云った。最後に自分に神を信仰するかと尋ねた。自分は空を見て黙っていた。
或時サローンに這入ったら派手な衣裳を着た若い女が向うむきになって、洋琴を弾いていた。その傍に背の高い立派な男が立って、唱歌を唄っている。その口が大変大きく見えた。けれども二人は二人以外の事にはまるで頓着していない様子であった。船に乗っている事さえ忘れているようであった。
自分はますますつまらなくなった。とうとう死ぬ事に決心した。それである晩、あたりに人のいない時分、思い切って海の中へ飛び込んだ。ところが――自分の足が甲板を離れて、船と縁が切れたその刹那に、急に命が惜しくなった。心の底からよせばよかったと思った。けれども、もう遅い。自分は厭でも応でも海の中へ這入らなければならない。ただ大変高くできていた船と見えて、身体は船を離れたけれども、足は容易に水に着かない。しかし捕まえるものがないから、しだいしだいに水に近づいて来る。いくら足を縮めても近づいて来る。水の色は黒かった。
そのうち船は例の通り黒い煙を吐いて、通り過ぎてしまった。自分はどこへ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方がよかったと始めて悟りながら、しかもその悟りを利用する事ができずに、無限の後悔と恐怖とを抱いて黒い波の方へ静かに落ちて行った。
第七夜
好像搭乘了一艘很大的船。
这艘船日夜不停吐着黑烟,破浪前行,发出轰鸣。但是,不知道这艘船要驶向哪里。只是太阳宛如烧得通红的火箸,从海底升上来。一直升到高高的帆柱上空时才静止了一下,但转眼间又会越过大船,消失于前方。最后,沉入海底,犹如烧红的火箸浸入水中一样发出嗤嗤声。每当这个时候,远方的蓝色波浪就会沸腾,变成黑红色。大船也会发出震耳欲聋的巨响循迹直追,但绝不可能赶上。
某一次,我逮住一位船上的男子问:
『这艘船是向西而行吧?』
男子惊讶地看了一下我的脸,然后回问道:
『为什么?』
『因为好像是追赶着落日。』
男子呵呵大笑了起来,然后走向远处。
耳边传来一阵齐声吆喝。
『西行之日,尽头是东吗?这是真的吗?日出东方,故里是西吗?这也真的吗?身在海上,以橹为枕,随波而流吧!』
我走到船头一看,原来是许多水手正在一起拉着粗重的帆索。
我感到非常不安,不知何时才能上岸,也不知船将驶向何处,只知道它吐着黑烟破浪前行。海面十分广阔,无边无际的蔚蓝,有时又变成紫色。只有船身四周总是白沫飞腾。我感到非常不安,想着与其待在船上,还不如投身大海死了算了。
同船乘客很多,似乎大半是外国人。不过长着各种各样的脸。有一天,天色阴霾,船身摇晃不定的时候,一个女子倚着栏杆不住哭泣。擦拭眼泪的手帕显得很白,但身上穿的是印花洋装。看到她的时候,我才发现原来悲伤的不只是我一个人。
一天夜晚,我独自走到甲板上眺望星空,一个外国人走到身边,问我懂不懂天文学。我觉得实在无聊,甚至想要自杀,没有必要知道什么天文学。我一言不发。那个外国人讲了金牛宫顶上七星的事。又说,星星与大海都是上帝的创造物。最后,问我信不信上帝。我只是望着星空,一言不发。
有一天,我走进沙龙,看见一个衣着华丽的年轻女子背对着我正在弹钢琴。旁边站着一个高大英俊的男子,正引吭高歌。嘴巴看起来大得惊人。但是,两个人看上去好像心无旁骛,甚至忘了自己正在船上的事实。
我感到更加无聊,终于下定寻死的决心。于是,一天夜晚,四下无人的时候,断然跳进海里。然而……当双脚离开甲板脱离船只的一刹那,突然舍不得生命了。要是放弃自杀该多好呀。可是,已经迟了。不管愿不愿意,我都不得不落在海里。只是船只似乎很高很高,身子虽已离开了船只,双脚却一直没有碰到水面。但是,又没有可抓之物,离海面越来越近。我拼命把脚缩起来,仍一步步靠近海面。水面一片漆黑。
这时,船一如往常吐着黑烟,渐行渐远。我才醒悟到,即使不知船要驶往何方,我仍应该待在船上才对。遗憾的是,醒悟已经于我无益,怀着无限悔恨与恐怖,我静静地落向黑色的波浪。
第八夜
床屋の敷居を跨いだら、白い着物を着てかたまっていた三四人が、一度にいらっしゃいと云った。
真中に立って見廻すと、四角な部屋である。窓が二方に開いて、残る二方に鏡が懸っている。鏡の数を勘定したら六つあった。
自分はその一つの前へ来て腰をおろした。すると御尻がぶくりと云った。よほど坐り心地が好くできた椅子である。鏡には自分の顔が立派に映った。顔の後には窓が見えた。それから帳場格子が斜に見えた。格子の中には人がいなかった。窓の外を通る往来の人の腰から上がよく見えた。
庄太郎が女を連れて通る。庄太郎はいつの間にかパナマの帽子を買って被っている。女もいつの間に拵らえたものやら。ちょっと解らない。双方とも得意のようであった。よく女の顔を見ようと思ううちに通り過ぎてしまった。
豆腐屋が喇叭を吹いて通った。喇叭を口へあてがっているんで、頬ペたが蜂に螫されたように膨れていた。膨れたまんまで通り越したものだから、気がかりでたまらない。生涯蜂に螫されているように思う。
芸者が出た。まだ御化粧をしていない。島田の根が緩んで、何だか頭に締りがない。顔も寝ぼけている。色沢が気の毒なほど悪い。それで御辞儀をして、どうも何とかですと云ったが、相手はどうしても鏡の中へ出て来ない。
すると白い着物を着た大きな男が、自分の後ろへ来て、鋏と櫛を持って自分の頭を眺め出した。自分は薄い髭を捩って、どうだろう物になるだろうかと尋ねた。白い男は、何にも云わずに、手に持った琥珀色の櫛で軽く自分の頭を叩いた。
「さあ、頭もだが、どうだろう、物になるだろうか」と自分は白い男に聞いた。白い男はやはり何も答えずに、ちゃきちゃきと鋏を鳴らし始めた。
鏡に映る影を一つ残らず見るつもりで眼を睁っていたが、鋏の鳴るたんびに黒い毛が飛んで来るので、恐ろしくなって、やがて眼を閉じた。すると白い男が、こう云った。
「旦那は表の金魚売を御覧なすったか「」
自分は見ないと云った。白い男はそれぎりで、しきりと鋏を鳴らしていた。すると突然大きな声で危険と云ったものがある。はっと眼を開けると、白い男の袖の下に自転車の輪が見えた。人力の梶棒が見えた。と思うと、白い男が両手で自分の頭を押えてうんと横へ向けた。自転車と人力車はまるで見えなくなった。鋏の音がちゃきちゃきする。
やがて、白い男は自分の横へ廻って、耳の所を刈り始めた。毛が前の方へ飛ばなくなったから、安心して眼を開けた。粟餅や、餅やあ、餅や、と云う声がすぐ、そこでする。小さい杵をわざと臼へあてて、拍子を取って餅を搗いている。粟餅屋は子供の時に見たばかりだから、ちょっと様子が見たい。けれども粟餅屋はけっして鏡の中に出て来ない。ただ餅を搗く音だけする。
自分はあるたけの視力で鏡の角を覗き込むようにして見た。すると帳場格子のうちに、いつの間にか一人の女が坐っている。色の浅黒い眉毛の濃い大柄な女で、髪を銀杏返しに結って、黒繻子の半襟のかかった素袷で、立膝のまま、札の勘定をしている。札は十円札らしい。女は長い睫を伏せて薄い唇を結んで一生懸命に、札の数を読んでいるが、その読み方がいかにも早い。しかも札の数はどこまで行っても尽きる様子がない。膝の上に乗っているのはたかだか百枚ぐらいだが、その百枚がいつまで勘定しても百枚である。
自分は茫然としてこの女の顔と十円札を見つめていた。すると耳の元で白い男が大きな声で「洗いましょう」と云った。ちょうどうまい折だから、椅子から立ち上がるや否や、帳場格子の方をふり返って見た。けれども格子のうちには女も札も何にも見えなかった。
代を払って表へ出ると、門口の左側に、小判なりの桶が五つばかり並べてあって、その中に赤い金魚や、斑入の金魚や、痩せた金魚や、肥った金魚がたくさん入れてあった。そうして金魚売がその後にいた。金魚売は自分の前に並べた金魚を見つめたまま、頬杖を突いて、じっとしている。騒がしい往来の活動にはほとんど心を留めていない。自分はしばらく立ってこの金魚売を眺めていた。けれども自分が眺めている間、金魚売はちっとも動かなかった。
第八夜
迈进理发店门槛的时候,穿着白色衣服的三四个人异口同声地喊道:『欢迎光临。』
站在中央环顾四周,是一间四方形的房间。两边有窗,另两边挂着镜子。数了一下,共有六面镜子。
我走到其中一面镜子前,一坐下椅子就发出扑哧声。椅子做工很好,非常舒服。镜子清晰照出自己的脸,脸后的窗户也看得到,还有斜后方的账台。账台里没人。街上的人们走过窗外,腰部以上看得很清楚。
看到庄太郎带着一个女子走过。庄太郎不知何时买了一顶巴拿马草帽,戴在了头上。也不知他何时交上了那个女子。两人一脸春风得意的样子。刚想仔细瞧瞧女子的容貌,却已经走过去了。
豆腐店的人吹着喇叭走了过去。他把喇叭凑到嘴上,双颊鼓鼓的像被蜜蜂蛰过一样。他一直鼓着双颊走了过去,所以,我担心的不得了,觉得他似乎一辈子都被蜜蜂蛰到。
有个艺妓出来了,还没上妆。岛田发型也松了,显得有些凌乱。一副睡眼惺忪的样子,脸色也糟糕得可怜。她向某人鞠躬行礼,说了『你好』之类,但是对方没有出现在镜中。
然后,一个穿着白色制服的高大男子走到我身后,手里拿着梳子剪刀注视着我的头发。我捻着下巴上的薄须,问道:『怎么样?可不可以理一理?』白衣男子一言不发,只用手中的琥珀色梳子轻轻点了一下我的头。
『那么,头呢?能不能理一理?』我又问白衣男子。白衣男子依然没有回答,咔嚓咔嚓开始剪了。
本想抓住任何照在镜中的影像,睁大了眼睛。可是,剪刀一响,黑发就在眼前飞扬,我担心头发掉进眼里,不久就闭上眼睛。这时,白衣男子说道:
『先生,您有没有看到外面卖金鱼的人?』
我说:『看不到。』他也就此打住,不住剪着头发。突然,有人大喊危险。我赶忙睁开双眼。只见镜中白衣男子的衣袖下有一个脚踏车轮子,还有人力车的车把。随即,白衣男子双手按住我的头,用力把我的头扭向一边,脚踏车及人力车全都消失了。又响起剪刀咔嚓咔嚓的声音。
过了一会儿,白衣男子绕到我的旁边,开始剪耳朵周围的头发。头发没有在眼前飞扬,我安心地睁开眼睛。外面不远传来叫卖声:『黄米糕啊!黄米糕啊!』。卖糕的人特意把杵子击在臼上,富有节奏地捣着糕。我只在小时候看过卖黄米糕的人,所以很想看一下。可是,此人总是没有出现在镜中。只听得见捣糕的声音。
我把眼神完全集中在镜子的角上,发现账台不知何时坐了一个女子。那个女的肤色微黑,眉毛很粗,身材高大,梳了一个银杏发型,穿着一件黑缎有衬领的空心夹袄,半蹲半坐数着钞票。钞票好像是十元面额。女子垂下修长的睫毛,抿着薄薄的嘴唇,专心数着钞票,数得很快。而且钞票似乎永远都数不完。膝上放着的钞票最多有一百多张,但是,那一百张钞票无论数到何时还是有一百张。
我茫然注视着女子与十元钞票,耳畔突然响起白衣男子的大嗓门:『头洗一下吧!』这正是绝佳机会,我从椅子上一站起来,立即回头看了一下账台。但是,账台里空空如也,既没有女子也没有钞票。
付钱以后,走到外面,看到门口左侧摆着五个椭圆形水桶,桶里放着红色的金鱼、带着斑纹的金鱼、瘦瘦的金鱼、肥鼓鼓的金鱼。卖金鱼的人就站在木桶后面。他支着下巴,目不转睛盯着眼前的金鱼,完全没有理会街上吵闹的景象。我站在那里看了看卖金鱼的人。但是,他始终没有任何动静。
第九夜
世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起りそうに見える。焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷の周囲を暴れ廻ると、それを夜昼となく足軽共が犇きながら追かけているような心持がする。それでいて家のうちは森として静かである。
家には若い母と三つになる子供がいる。父はどこかへ行った。父がどこかへ行ったのは、月の出ていない夜中であった。床の上で草鞋を穿いて、黒い頭巾を被って、勝手口から出て行った。その時母の持っていた雪洞の灯が暗い闇に細長く射して、生垣の手前にある古い檜を照らした。
父はそれきり帰って来なかった。母は毎日三つになる子供に「御父様は」と聞いている。子供は何とも云わなかった。しばらくしてから「あっち」と答えるようになった。母が「いつ御帰り」と聞いてもやはり「あっち」と答えて笑っていた。その時は母も笑った。そうして「今に御帰り」と云う言葉を何遍となく繰返して教えた。けれども子供は「今に」だけを覚えたのみである。時々は「御父様はどこ」と聞かれて「今に」と答える事もあった。
夜になって、四隣が静まると、母は帯を締め直して、鮫鞘の短刀を帯の間へ差して、子供を細帯で背中へ背負って、そっと潜りから出て行く。母はいつでも草履を穿いていた。子供はこの草履の音を聞きながら母の背中で寝てしまう事もあった。
土塀の続いている屋敷町を西へ下って、だらだら坂を降り尽くすと、大きな銀杏がある。この銀杏を目標に右に切れると、一丁ばかり奥に石の鳥居がある。片側は田圃で、片側は熊笹ばかりの中を鳥居まで来て、それを潜り抜けると、暗い杉の木立になる。それから二十間ばかり敷石伝いに突き当ると、古い拝殿の階段の下に出る。鼠色に洗い出された賽銭箱の上に、大きな鈴の紐がぶら下がって昼間見ると、その鈴の傍に八幡宮と云う額が懸っている。八の字が、鳩が二羽向いあったような書体にできているのが面白い。そのほかにもいろいろの額がある。たいていは家中のものの射抜いた金的を、射抜いたものの名前に添えたのが多い。たまには太刀を納めたのもある。
鳥居を潜ると杉の梢でいつでも梟が鳴いている。そうして、冷飯草履の音がぴちゃぴちゃする。それが拝殿の前でやむと、母はまず鈴を鳴らしておいて、すぐにしゃがんで柏手を打つ。たいていはこの時梟が急に鳴かなくなる。それから母は一心不乱に夫の無事を祈る。母の考えでは、夫が侍であるから、弓矢の神の八幡へ、こうやって是非ない願をかけたら、よもや聴かれぬ道理はなかろうと一図に思いつめている。
子供はよくこの鈴の音で眼を覚まして、四辺を見ると真暗だものだから、急に背中で泣き出す事がある。その時母は口の内で何か祈りながら、背を振ってあやそうとする。すると旨く泣きやむ事もある。またますます烈しく泣き立てる事もある。いずれにしても母は容易に立たない。
通り夫の身の上を祈ってしまうと、今度は細帯を解いて、背中の子を摺りおろすように、背中から前へ廻して、両手に抱きながら拝殿を上って行って、「好い子だから、少しの間、待っておいでよ」ときっと自分の頬を子供の頬へ擦りつける。そうして細帯を長くして、子供を縛っておいて、その片端を拝殿の欄干に括りつける。それから段々を下りて来て二十間の敷石を往ったり来たり御百度を踏む。
拝殿に括りつけられた子は、暗闇の中で、細帯の丈のゆるす限り、広縁の上を這い廻っている。そう云う時は母にとって、はなはだ楽な夜である。けれども縛った子にひいひい泣かれると、母は気が気でない。御百度の足が非常に早くなる。大変息が切れる。仕方のない時は、中途で拝殿へ上って来て、いろいろすかしておいて、また御百度を踏み直す事もある。
こう云う風に、幾晩となく母が気を揉んで、夜の目も寝ずに心配していた父は、とくの昔に浪士のために殺されていたのである。
こんな悲い話を、夢の中で母から聞いた。
第九夜
社会逐渐动荡不安,战争似乎一触即发。犹如无鞍之马遭遇大火而无家可归,昼夜不停狂奔于房子的周围,而最下级的武士们则不分昼夜狂奔追赶那匹马,一片混乱的景象。尽管那样,家里面却寂静无声。
家里面有一个年轻母亲与一个三岁小孩。父亲离开家里去了一个地方了,离开的时候是一个没有月亮的深夜。他坐在地板上穿草鞋,戴上黑色头巾,从后门走了出去。当时,母亲手持纸罩蜡烛灯,烛光在黑夜中拉长变细,照在篱笆前的古柏上面。
父亲一去不复返。母亲每天都对着三岁的孩子问道:『爸爸呢?』孩子一言不发。过了一段时间,孩子才开始答道:『那边。』母亲又问:『什么回来呢?』孩子仍然答道:『那边。』然后笑了笑。那个时候,母亲也笑了,跟着反复教孩子说『很快就回来了。』但是,孩子只学会说『很快。』有时,听到『爸爸在哪里』,孩子就答道:『很快。』
一到夜里人声俱寂,母亲就会紧紧系好腰带,腰带上插一把鲛鞘短刀,用细带把孩子背在背上,悄悄地从小门走出去。母亲总是穿着草屐。孩子听着草屐声,常常在母亲背上睡着了。
走过围以土墙的宅邸区往西,走下很长的小斜坡,可以见到一棵高大的银杏树。面朝银杏树右转,往里走一百多步,有一座神社的石牌坊。顺着一边是田地一边全是山白竹的小路走到石牌坊,再穿过去就是一大片黑压压的杉林。然后,顺着三十多步长的石板路走到尽头,就到了一座古老神殿的石阶下。香资箱历经风雨变成深灰色,其上垂着一条顶端系有大铜铃的粗绳。白天的时候,可以看到铜铃旁边挂着写有『八幡宫』的牌匾。『八』字的书体非常有趣,犹如两只相对的鸽子。此外,还有各种各样的牌匾。很多都把诸侯臣下弓箭手的金色靶子加到了弓箭手的名字上面,偶尔也有献纳长刀的情况。
一穿过石牌坊,杉树枝上猫头鹰的叫声时刻不停息。同时,响起破旧草屐啪嗒啪嗒的声音。至神殿前,草屐声一停,母亲首先摇响铜铃,随即蹲下并击掌拜神。通常这个时候,猫头鹰就突然安静下来了。母亲则一心一意祈求丈夫的平安。母亲深信丈夫是武士,所以在弓箭之神的八幡宫许下非许不可的祈愿,应该不会不应验吧。
孩子常常因为铃声醒过来,看到四周一片漆黑,即刻在背上哭起来。那个时候,母亲就一边口中念着祈愿,一边抖动背部哄哄孩子。有时,孩子立刻就不哭了。有时,也会哭得更厉害。不管怎样母亲都不会轻易站起来,放弃拜神祈愿。
为丈夫许愿结束以后,母亲就解开细带,把背上的孩子挪到前面,用双手抱着走上拜殿,总是用自己的脸颊蹭着孩子的脸颊说道:『孩子乖!等一下妈妈哟。』接着,把细带展开,一端系在孩子身上,另一端固定于拜殿的栏杆。最后走下石阶,来回于三十多步长的石板路,拜庙百次。
一片漆黑中,系于拜殿走廊的孩子在细带的长度范围内爬来爬去。那种时候,对母亲来说实在是安乐的夜晚。但如果系着的孩子哭哭啼啼,母亲就心急如焚,拜庙的脚步变得非常快,呼吸十分辛苦。有时候实在没有办法了,才中途回到拜殿,想方设法哄孩子安静以后,再次重新开始拜庙。
母亲对父亲如此昼夜牵挂,担心得夜不能眠,然而,父亲早就因流浪武士的身份而丧命了。
这个悲伤的故事,是梦中母亲讲的。
第十夜
庄太郎が女に攫われてから七日目の晩にふらりと帰って来て、急に熱が出てどっと、床に就いていると云って健さんが知らせに来た。
庄太郎は町内一の好男子で、至極善良な正直者である。ただ一つの道楽がある。パナマの帽子を被って、夕方になると水菓子屋の店先へ腰をかけて、往来の女の顔を眺めている。そうしてしきりに感心している。そのほかにはこれと云うほどの特色もない。
あまり女が通らない時は、往来を見ないで水菓子を見ている。水菓子にはいろいろある。水蜜桃や、林檎や、枇杷や、バナナを綺麗に籠に盛って、すぐ見舞物に持って行けるように二列に並べてある。庄太郎はこの籠を見ては綺麗だと云っている。商売をするなら水菓子屋に限ると云っている。そのくせ自分はパナマの帽子を被ってぶらぶら遊んでいる。
この色がいいと云って、夏蜜柑などを品評する事もある。けれども、かつて銭を出して水菓子を買った事がない。ただでは無論食わない。色ばかり賞めている。
ある夕方一人の女が、不意に店先に立った。身分のある人と見えて立派な服装をしている。その着物の色がひどく庄太郎の気に入った。その上庄太郎は大変女の顔に感心してしまった。そこで大事なパナマの帽子を脱って丁寧に挨拶をしたら、女は籠詰の一番大きいのを指して、これを下さいと云うんで、庄太郎はすぐその籠を取って渡した。すると女はそれをちょっと提げて見て、大変重い事と云った。
庄太郎は元来閑人の上に、すこぶる気作な男だから、ではお宅まで持って参りましょうと云って、女といっしょに水菓子屋を出た。それぎり帰って来なかった。
いかな庄太郎でも、あんまり呑気過ぎる。只事じゃ無かろうと云って、親類や友達が騒ぎ出していると、七日目の晩になって、ふらりと帰って来た。そこで大勢寄ってたかって、庄さんどこへ行っていたんだいと聞くと、庄太郎は電車へ乗って山へ行ったんだと答えた。
何でもよほど長い電車に違いない。庄太郎の云うところによると、電車を下りるとすぐと原へ出たそうである。非常に広い原で、どこを見廻しても青い草ばかり生えていた。女といっしょに草の上を歩いて行くと、急に絶壁の天辺へ出た。その時女が庄太郎に、ここから飛び込んで御覧なさいと云った。底を覗いて見ると、切岸は見えるが底は見えない。庄太郎はまたパナマの帽子を脱いで再三辞退した。すると女が、もし思い切って飛び込まなければ、豚に舐められますが好うござんすかと聞いた。庄太郎は豚と雲右衛門が大嫌だった。けれども命には易えられないと思って、やっぱり飛び込むのを見合せていた。ところへ豚が一匹鼻を鳴らして来た。庄太郎は仕方なしに、持っていた細い檳榔樹の洋杖で、豚の鼻頭を打った。豚はぐうと云いながら、ころりと引っ繰り返って、絶壁の下へ落ちて行った。庄太郎はほっと一と息接いでいるとまた一匹の豚が大きな鼻を庄太郎に擦りつけに来た。庄太郎はやむをえずまた洋杖を振り上げた。豚はぐうと鳴いてまた真逆様に穴の底へ転げ込んだ。するとまた一匹あらわれた。この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、遥の青草原の尽きる辺から幾万匹か数え切れぬ豚が、群をなして一直線に、この絶壁の上に立っている庄太郎を目懸けて鼻を鳴らしてくる。庄太郎は心から恐縮した。けれども仕方がないから、近寄ってくる豚の鼻頭を、一つ一つ丁寧に檳榔樹の洋杖で打っていた。不思議な事に洋杖が鼻へ触りさえすれば豚はころりと谷の底へ落ちて行く。覗いて見ると底の見えない絶壁を、逆さになった豚が行列して落ちて行く。自分がこのくらい多くの豚を谷へ落したかと思うと、庄太郎は我ながら怖くなった。けれども豚は続々くる。黒雲に足が生えて、青草を踏み分けるような勢いで無尽蔵に鼻を鳴らしてくる。
庄太郎は必死の勇をふるって、豚の鼻頭を七日六晩叩いた。けれども、とうとう精根が尽きて、手が蒟蒻のように弱って、しまいに豚に舐められてしまった。そうして絶壁の上へ倒れた。
健さんは、庄太郎の話をここまでして、だからあんまり女を見るのは善くないよと云った。自分ももっともだと思った。けれども健さんは庄太郎のパナマの帽子が貰いたいと云っていた。
庄太郎は助かるまい。パナマは健さんのものだろう。
第十夜
阿健跑到我这里,告诉说:『被女人骗走后的第七天晚上,庄太郎突然回来了。随之发烧,卧床不起。』
庄太郎是城区中最英俊的男子,十分正直善良。只是有一个癖好:一到黄昏,他就戴着巴拿马草帽坐在水果店前,望着街上女子的脸,然后反复赞叹。除此以外,也没有什么值得一提的特点。
走过的女子不多的时候,他就不看街道而是盯着水果。水果各色各样,水蜜桃、苹果、枇杷、香蕉等整齐地装在篮子里面,同时排成两列,以便人们买了可以直接提着篮子当作慰问礼品。庄太郎一看到篮子就说好看,还说:『如果要做生意,一定只开水果店。』尽管如此,他还是总戴着草帽四处游荡。
有时,他也会品评橘子等,说:『这个色泽不错。』但是从来没有花钱买水果。免费的当然没得吃,只是一个劲儿称赞色泽。
有一天傍晚,一个女子突然站在店前。似乎是有身份的人,穿着十分华丽的衣服。庄太郎非常喜欢那件衣服的颜色,而且对女子的容貌赞叹不已。于是,他脱下宝贵的巴拿马草帽致以恭敬的问候。女子指着最大一篮水果想要买,庄太郎立刻提着递给她。女子提了一提,说实在太重了。
庄太郎本就无所事事,又是一个直爽的男子,就说:『我送到您家里吧。』跟着女子一起离开了水果店。此后,一去不回。
这回庄太郎也太悠哉了。正当亲戚朋友焦急万分觉得此事非同小可的时候,第七天晚上庄太郎突然回来了。很多人跑到他家,一起问他去了哪里,庄太郎回道:『是乘电车到山上去了。』
据说乘了很久的电车。按照庄太郎的描述,下了电车后他才发现自己到了一片草原。草原非常辽阔,一眼望去尽是青草。与女子在草原上走着走着,突然走到了悬崖峭壁。那个时候,女子对庄太郎说:『请从这里跳下去吧。』庄太郎看了看下面,只有峭壁岩石而深不见底。庄太郎再次脱下巴拿马草帽,再三谢绝了。女子于是问:『假如你不下定决心跳下去,就会被猪舔了。没关系吗?』
庄太郎最讨厌猪和云右卫门,但觉得不能搭上性命,他仍然不想跳下去。没想到一头猪哼哼叫着跑了过来。庄太郎别无他法,只能用手上那支槟榔树枝制成的细长柺杖打了猪的鼻头。猪带着一声哀鸣,翻滚并掉到了悬崖下面。庄太郎刚松了一口气,又有一头猪把硕大的鼻子蹭向他。庄太郎不得不再度挥起柺杖。猪又带着一声哀鸣,四脚朝天滚落谷底。然后,又一头猪紧接而至。庄太郎这才突然发觉,从遥远的草原尽头,数以万计的猪群列成一直线哼哼直叫,奔向站在悬崖上的庄太郎。
庄太郎惊慌不已。但是,找不到任何办法,只能用槟榔树柺杖一下一下小心谨慎地打向猪的鼻子。不可思议的是,柺杖一碰到猪鼻,猪就会滚落谷底。往下一看,只见四脚朝天的猪排成一行沿着峭壁掉下去。
庄太郎没想到自己使这么多猪掉到山谷里面,禁不住感到害怕。但是,那些猪持续不断冲过来。它们哼叫着扑过来,那种气势犹如乌云长了巨脚,蹚着青草前进。
庄太郎鼓起勇气敲打了七天六夜的猪鼻。但是,最终体力不支,手脚像蒟蒻一样软弱无力,最后被猪舔了,倒在了峭壁上。
讲到这里,阿健说道:『所以,女人看多了不好。』我也赞同他的说法。但是,阿健说过想要庄太郎的巴拿马草帽。
庄太郎应该没救了。巴拿马草帽可能属于阿健了吧。
注 释
〔1〕镰仓时代著名的佛像雕凿师。
〔2〕传说中大和国家成立初期的英雄。