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一、酒と文学
日本でも有名な四大古典小説、『三国演義』、『水滸伝』、『西遊記』、『紅楼夢』にも多くの酒の場 面が登場する。例えば、三国演義では、劉備、関羽、張飛が、酒の宴において義兄弟となる誓いを 結んだ「桃園の誓い」や、曹操と劉備が酒を交わしながら、互いに相手の心理と器を探り合う「青 梅煮酒論英雄」などが有名であろう。
また、紅楼夢には、酒を飲む場面が非常に多く描かれ、第1回から第 117 回までに、直接酒を飲 む場面が 60 以上、酒の字が 580 以上、賀喜酒、祝寿酒、待客酒、賞花 酒といった各種酒の名目が 23 種描かれているし、さらには、宴会や飲 酒、人々が酔いしれる様子以外にも、酒の知識や酒令、酒に関する習わ しなどの描写も登場する。
この他にも、楊貴妃にまつわる故事では、楊貴妃の悲しみ、嫉妬、孤 独な心持ちから大いに酒に酔い乱れる場面があるが、清末期から戦後に かけて活躍した京劇俳優の梅蘭芳がその情景を見事に演じた『貴妃酔酒』 は、日本でもよく知られているところである。
また、東晋の著名な詩人、陶渊明は、『飲酒』と題した 20 首の詩を作 っているが、唐代の詩人、李白をはじめ後々の詩人たちに、酒に関する 詩が詠まれるようになったのも、彼の功績によるところが大きいといわ れる。
唐代の詩人である杜甫は、後世、「詩聖」と呼ばれるが、杜甫が残した 1,400 余りの詩歌のうち、 実に 300 首前後が飲酒に関するものである。 宋代の詩人、蘇東坡は、酒を飲むとインスピレーションがわき、飲酒後に、今に残る数々の有名 な詩が作られたと言われる。また、自らが酒を造り、酒の醸造について『東坡酒経』にまとめてい る。ここでは、唐代の詩人、白居易と李白についての酒にまつわる伝記を紹介する。
二、白居易
白居易は、陶渊明、李白、蘇東坡らとならぶ酒好きの文人として知られている。家には酒庫があ り、酒甕を枕元に置き、眠る前には酒を飲み、眼が覚めてはまた飲み、金があれば酒を買い、金が なければ馬を売り、衣服を質に入れて酒を飲み、また、酒のつまみがあればもちろんのこと、つま みがなくても詩を詠み琴を弾きながら、やはり酒を飲んだと言われる。 白居易は、365 日毎日必ず酒を飲み、飲んだ後に詩を書く心情となり、詩歌は流れ出る水のよう に生まれたという。3,000 以上の詩をつくっているが、その中で『南亭対酒送春』、『対酒』、『花下 自勧酒』、『酔歌』、『酔後走筆』、『答勧酒』、『強酒』、『春酒初熟』など、酒に関する詩題が数多くあ る。また、白居易は自らを「酔吟先生」と称し、杭州の長 官時代に、湖畔には柳や竹が茂り、湖には魚が跳ね、水 面が光り輝く、西湖の絵のような風景に魅せられ、そこ でよく酒を飲み、詩を詠んだといわれる。 白居易が任期を満了し杭州を離れる際に、杭州の百姓 と、また、西湖の風景と杯を交わしつつも、名残惜しく て離れられない様子が『別杭州』に詠まれている。

三、李白
「詩仙」とも称される李白は酒をこよなく愛す唐代の詩人で、その詩には、当時の政治の腐敗を 批判するとともに、庶民の苦しみに同情を寄せるものも多い。 李白は生活に満足している時も、心に憂いのある時も、月下であっても、船中であっても、あず まやであっても、いつでもどこででも酒を飲み、酔いしれた。美酒があり、心ゆくまで飲むことさ えできれば、李白にとっては、その地が故郷にもなるという。晩年は、お気に入りの名刀まで手放 し、酒に換え、その人生はまさに、酒に生まれ酒に死すとまで言われている。 李白と同時代の詩人である杜甫は、酒中八仙の詩を吟詠し、その中で「李白は一斗升の酒を飲め ば百篇の詩が生まれ、長安市では酒を飲んで酒屋でそのまま寝る。皇帝の召し出しにも応じず、自 ら酒中の仙人と称する」と記している。 李白は襄陽や江夏(ともに現在の湖北省)など各地 を旅し、中国人の誰もがよく知る詩を数多く残してい る。『襄陽歌』では、「百年三万六千日、一日須く三百 杯を傾けるべし」と詠い、また、『月下独酌・其一』で は、「挙杯邀明月 対影成三人」と、杯を挙げて明月を 酒の相手とし、李白とその影、さらに月の三人で酒を 楽しむ情景が詠まれている。 酒を詠んだ李白の詩の中で、最も有名な『将進酒』の一首を巻末の参考資料に紹介する。


