
中国での食事で最も大事なこと
中国での食事と言えば、アツアツの料理をみんなで囲んでワイワイ食べるというのが一番大事、中でも一番大事なのはアツアツの料理ということです。もちろん冷たい前菜もありますが生ものはありません。必ず火が通っています。そういうアツアツの料理をワイワイガヤガヤ皆で大きな声でしゃべりながら、楽しみながら食べる、これが中国の食事で最も大事なマナーです。
きれいに食べるのではなく、少し残すのがマナー
日本では食事をごちそうになったら、きれいに全部食べることで「おいしかった」という意味を表しますが、中国でこうした行為は「おかずが足りなかった」という意味になってしまいます。そこで中国では全部は食べずに残すのがマナーです。ただし最近はこうした風潮に対して資源の無駄づかいだとやり玉に挙げられています。中国人から食事に招かれたら、周囲の中国人にこのへんの状況を聞いておきましょう。招いてくれた人が昔ながらの中国人ならば、少し残した方が無難です。
自分の箸でおいしい料理を取ってあげる
中国では家族で食事をしていると、親が子の皿に、あるいは成長した子供が親の皿に肉や魚などメインのおかずを取ってやったりします。時には口に運んでやります。そのお箸は自分が使っている箸で、日本の子供なら「わーっ汚い!」とか言いそうです。中国では基本誰も気にしません。それこそがマナーでもあるのです。ですから食事に招かれたお客にも同じことをします。さすがに口に運ぶというのは恋人など特殊な関係でしょうが、普通の知り合いどうしでも自分のお箸でお皿に取ってあげます。もっともこれは、外国人が真似をしなければならないマナーということではなく、中国の食文化的なものです。
日本人はなぜ取り箸を必要とするか?
日本人には衝撃である、自分の口に入れた箸で相手の皿からおかずをもらう行為ですが、でも鍋料理の時は日本人もこれをやりますね。「自分のお箸でいいかなあ?」「いいよ、いいよ」という感じで。あれはぐつぐつ煮えている鍋なので、多少衛生に問題があっても熱湯消毒されるという感覚があるのかもしれません。鍋ではないおかずやケーキなどを分ける時は口に入れたお箸は普通使いません。まだ使っていないフォークやお箸をさかさまに使うなどして取り分けますね。
なぜ日本人はこうしたことにこだわるか?もちろん衛生的なことを学ぶからでしょうが、それ以外にこれは昔の食事の習慣から来ているのかもしれません。日本人はかつて農村などでも、つまり侍だけでなく庶民も「箱膳」という食事用の小さな机をそれぞれが持ち、そこに自分用の食器を載せて食べていました。そして食事中のおしゃべりは厳禁でした。自分のお箸で人のおかずを取ってくるなど距離的にも不可能だったでしょうし、ひどく行儀の悪い行為として叱られたことでしょう。逆に中国人はかなり古い時代から皆でテーブルを囲んで食事をしていたようです。日本にこうしたスタイルがちゃぶ台とともに入ってくるのは大正時代以降と言われています。食事のスタイルの日中の違いは、こうしたことからも生まれているのかもしれません。
中国では人と距離を取らないことが敬意の現れ
中国人は大事な友人はそれこそ身内のように扱います。身内のように扱ってこそ相手への敬意の現れともいえるのです。日本は逆です。大事な友人はお客様として丁重に扱います。「親しき仲にも礼儀あり」です。客として丁重にもてなしてこその敬意です。もちろん学生時代などは日中ともあまり変わらないでしょうし、個人差もあるのですべてがそうとは言い切れませんが…。
たとえば大事な友人が来たら自分のベッドに寝てもらいますか?それとも客間にきれいな布団とシーツを用意しますか?日本人は自分のベッドなんて失礼だと感じるし、(あるいはたとえ友人でも自分のベッドに寝られるのは嫌だと感じる人も多いでしょう)きれいな客用布団を用意するのが常識だと考えます。中国人は逆、自分の寝心地のよいベッドを友人にゆずるのです。
バスの中の老人に席をゆずる時「叔母さん(母親の妹の意味)、どうぞ」と見知らぬ人に親族呼称をつけて呼びます。自分の親族ワールドに入れて距離感を消し、こうして相手に敬意を表すのです。
中国人の食事のマナー…取り箸など使わず自分の箸でおかずを相手の皿に入れてやる行為にはこうした感覚も入っているような気がします。
「支払い・割り勘」についてのマナー
みなでレストランで食事をする時誰が払うか?割り勘はありか?中国では基本割り勘はありません。そこで毎回誰が払うかでもめます。「私が払うよ」「いや私だ」という具合に。Aさんが払えば次の食事ではBさんになり、結局は割り勘のようになるのですが、それでも割り勘という便利な支払い方を中国人は拒否します。割り勘なんてあまりにみみっちいという感覚なのです。ですから中国人と食事に行く時は自分が払う覚悟で行くといいでしょう。その次の機会では別の誰かが払ってくれます(たぶん)。とにかくどーんと大きいところを見せること、中国人との付き合いではこうした度量の大きさを見せることが大切です。また中国人がお客である場合、お客に払わせるわけにはいかないと思ったら「メンツ」を持ち出すことです。“这次给我面子吧。Zhècì gěi wǒ miànzi ba.”(今回は私の顔を立ててくださいよ)と言えば、すんなりこちらに払わせてくれることが多いです。
宴会の最初の挨拶
まずは集まって簡単な挨拶、これは日中とも同じ、話のつまらなさも一般には同じです。日中両国人が集まっての宴席ですと、挨拶のパターンもほぼ決まっているので、通訳養成教室での通訳練習はまずこれから覚えていくほどです。日中とももう少しジョークセンスを磨いた方がいいと思うのですが…。
中国の乾杯は一気飲み
次に乾杯。中国の乾杯は、互いの健康や事業の発展を祝して「杯を干す」、つまり日本で言う「一気飲み」です。中国語では“干杯gānbēi”と書きます。日本の乾杯は同じく互いに祝福し合って「杯をぶつけること」、中国語で言う“碰杯pèngbēi”(杯をぶつける、という意味)です。飲み干す必要はありません。
中国での本当の乾杯とは飲み干すこと
最近の中国の宴会やパーテイでは、みんな一緒にやる「乾杯」の場では日本のような“碰杯”も増えていて必ずしも飲み干す必要はなくなっているようです。それでも中国における「本当の乾杯」は「飲み干すこと」であることに変わりはありません。
中国では飲み干すことが敬意を表す
そうした「乾杯」はどんなふうにやるかというと、宴たけなわになった頃、グラスを抱えてお世話になっている相手、あるいはお世話になりそうな相手のところに行き、「敬意を表してまずは一杯」(“敬你一杯”)と言いながら自分のグラスを一気に飲み干します。「飲み干す」ことで敬意を表すのです。自分のグラスが空だったらテーブルの上のお酒を手酌でついでかまいません。
敬意を表された相手もともに飲み干す
敬意を表された相手は黙って見ていてはいけません。一緒に自分もグラスのお酒を飲み干します。そうでないと相手の敬意を一方的に受けているだけ…偉そうな感じになってしまいます。相手が敬意を表してくれたら、こちらも相手に敬意を表すのです。
日本は相手についであげることが敬意
これが日本ですと相手の席に移動して、「おひとつどうぞ」と言っておちょこにお酒をついであげるんですね。すると相手は「いやあ、これはこれは」と言って飲み干し、今度は先についでくれた相手に「では一杯」とかなんとか言ってついであげる。つまり日本では「相手の杯にお酒をついであげる」ことが敬意の表れなわけです。中国では「相手の前で飲み干す」ことが敬意の表れで、そのポイントは「飲み干す」ことなのです。

